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大阪高等裁判所 昭和38年(ナ)4号 判決 1965年4月27日

原告 松尾末松

被告 和歌山県選挙管理委員会

補助参加人 谷甚蔵

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用(参加によつて生じた分を含む。)は原告の負担とする。

事実

第一、原告訴訟代理人は、「被告が昭和三八年五月二八日になした同年一月二四日施行の和歌山県日高郡美浜町議会議員一般選挙における候補者谷甚蔵(補助参加人)の当選の効力に関する原告の審査申立を棄却する旨の裁決はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、原告および補助参加人(以下単に「参加人」という。)はいずれも前記美浜町議会議員一般選挙(以下「本件選挙」という。)に立候補した者であるが、開票の結果、当該選挙会は、補助参加人を最下位当選者、原告を最高位落選者と決定した。しかし、参加人と原告の各得票数について疑問があり、従つて、参加人の当選の効力について疑問があつたので、原告は、同年二月五日美浜町選挙管理委員会に参加人の当選の効力に関する異議の申出をしたところ、同委員会は、同年三月六日右異議申出を棄却する旨の決定をした。そこで、原告は、同月二五日被告に右決定を取消す旨の審査申立をしたところ、被告は、同年五月二八日参加人の得票数は一五二・四一一票原告の得票数は一五一票となるから、参加人の当選は有効である旨の理由で、右審査申立を棄却する旨の裁決をし、その裁決書は同年六月六日原告に交付された。

二、被告が原裁決において、参加人の得票数に算入した投票のうちには、別紙第一目録記載の番号1ないし8の各投票(以下同目録記載の番号だけを付して表示する。)が存するところ、被告は、1ないし7の投票は参加人に対する単独有効投票、8の投票は本件選挙において立候補した訴外谷敏蔵と参加人との按分有効投票であるとして、原裁決をなしている。

三、しかし、1ないし8の投票は、以下順次述べる理由により、いずれも無効のものであり、ただ、7の投票については、仮にそれが無効でないとするも按分有効投票とすべきである。

(1)  1および2の投票について。

本件選挙の候補者中には、訴外三尾久雄、同谷敏蔵および参加人の三名が含まれているところ、1および2の投票は、いずれも右三尾久雄と参加人とを併記したものと認めるべきであるから、無効投票である。被告は、原裁決において、右各投票の「三尾」なる記載は参加人の住所である美浜町大字三尾の三尾を付記したものであると判定しているけれども、その判定は誤つている。

(2)  3の投票について。

同投票は、右三尾久雄と参加人または前記谷敏蔵を併記したものと認めるべきであるから、無効投票である。被告は、原裁決において、前同様同投票の「三尾」なる記載は、参加人の住所を付記したものであると判定しているけれども、その判定は誤つている。

(3)  4の投票について。

同投票には、候補者氏名欄の上部左側の部分に極小の文字で「タニジンゾウ」と横書きされている。このように、特に極小文字で記載されているのは、不真面目な記載であり、従つて、無効投票であるというべきである。

(4)  5の投票について。

同投票は、候補者氏名欄のわくの左外側の余白部分に、「谷甚蔵」と記入されているが、このような記載の投票は、無効のものであるというべきである。

(5)  6の投票について。

原裁決は、同投票の記載を「タニジン」なる記載と認めてこれを参加人の有効投票としているが、同投票の記載は、「タニゾウ」なる記載とみるのが妥当である。従つて、参加人に対する単独有効投票でなく、また、公職選挙法第六八条の二第一項の規定による参加人と谷敏蔵との按分有効投票でもない。

(6)  7の投票について。

同投票の記載中「<手書き文字省略>」なる記載は、文字と解することができないから、他事記載であるというべく、従つて、同投票は、無効である。仮に、そうでないとするも、参加人と谷敏蔵との按分有効投票であるというべきである。

(7)  8の投票について。

同投票は、参加人と谷敏蔵との按分有効投票とされているが、公職選挙法第六八条の二第一項の要件を具備していないから、無効のものである。

四、以上の説明に基づいて、参加人の得票数を計算すると、その単独有効投票は一四八票以下一四五票まで、按分有効投票は、一・〇四票以下一・〇三票までとなり、これを合計すると一四九・〇四票以下一四六・〇三票までとなるので、得票数一五一票の原告を当選人とし、参加人は、落選者とすべきである。従つて、これと趣を異にする被告の原決定は不当であるから、原告は、これが取消を求めるため、本訴請求に及んだ次第である。

第二、被告訴訟代理人は、主文第一項同旨および「訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

一、原告主張の請求原因事実のうち、一の事実(但し、被告が原裁決において参加人および原告の各得票数を原告主張のように判定した点を除く。)および二の事実(但し、別紙第一目録記載の1ないし6の各投票につき、同目録記載の検証調書添付写真番号欄記載の部分を除く。)は認める。

二、原告主張の請求原因事実三における1ないし8の投票の効力に関する原告の主張は、左記理由によりいずれも排斥せられるべきである。

(1)  1および2の投票について。

原告主張のように、訴外三尾久雄および谷敏蔵(名は「としぞう」と読む。)が本件選挙の候補者であつたことは認める。本件選挙においては、氏が「谷」である候補者は、谷敏蔵と参加人の両名だけであつたので、参加人は、美浜町大字浜の瀬(通称浜)に住所のある谷敏蔵と区別するため、選挙運動期間中、ポスターには同町大字三尾に住所のある参加人の表示として谷に「三尾」を付して記載し、街頭演説においても三尾の谷と強調した。従つて、1および2の各投票に記載の「三尾」は候補者三尾久雄を表示する趣旨ではなく、谷敏蔵と区別するため、参加人の住所を表示したものであつて、1の投票の「谷ジン」は「谷甚」(谷甚蔵の略称)の趣旨であるから、右各投票は、参加人に対する有効投票である。

(2)  3の投票について。

同投票も前同様候補者谷敏蔵と区別するため、参加人の住所である「三尾」を谷の右肩上に付記した参加人に対する有効投票であつて、原告主張のように、候補者三尾久雄の氏を併記したものとみるべきではない。

(3)  4の投票について。

同投票についての原告の主張は、投票の効力に関する公職選挙法の規定の趣旨を正しく理解しないことによるものであつて、採用すべきではない。

(4)  5の投票について。

同投票についての原告の主張も右(3)と同様の理由により排斥すべきである。

(5)  6の投票について。

同投票の記載のうち「<手書き文字省略>」なる記載は、その算跡から「ジン」と判読するを妥当とするから、同投票は、「タニジン」すなわち「谷甚」(谷甚蔵の略称)の趣旨のものとして参加人に対する有効投票であるとみるべきである。

(6)  7の投票について。

同投票の記載のうち「<手書き文字省略>」は、明かに文字であつて、片仮名の「ロ」である。すなわち、同投票の記載は、「谷ジロ」なる記載とみるべきものであるところ、美浜町の住民中には、「甚蔵(じんぞう)」なる発音を「じんろう」と訛つてする者が多く、かような選挙人が「ジンゾウ」と記載すべきを「ジロ」と記載したもので、このような記載の投票は、参加人に対する有効投票とみるべきである。

(7)  8の投票について。

公職選挙法第六八条の二の規定は、できるだけ選挙人の意思を尊重して投票を有効にしようとする律意のものであるから、右投票は、その記載内容からして谷敏蔵と参加人との按分有効投票であると認めるべきである。

三、以上の次第であるから、原告の審査申立を棄却した原裁決は正当であつて、原告の本訴請求は失当である。

第三、参加人は、次のとおり陳述した。

本件選挙の投票中に、別紙目録記載番号9の投票(以下単に「9の投票」という。)が存するところ、美浜町選挙管理委員会は、前記原告の異議申出に対する決定において、右投票は参加人と谷敏蔵との按分有効投票であると判定したが、被告は、原裁決において、右のような按分有効投票ではなく、無効のものであると判定した。しかし、本件選挙においては、「谷」という氏の候補者は、谷敏蔵と参加人との二人だけであるから、同投票は、右二人のいずれかに対するものであることは疑う余地がなく、その記載の「ニ」は、「ニン」または「仁(ジン)」に通ずるが、「敏(トシ)」と通ずるとは考えられない。ところで、候補者中に類似の氏名の者が二名以上あるとき、投票記載の氏名がそのいずれか一方の氏名に最も近似している場合は、その投票は、近似している方の氏名の候補者に対する有効投票と認めるべきであるから、本投票は、参加人に対する有効投票とすべきである。仮に、そうでないとするも、参加人と谷敏蔵との按分有効投票であるとすべきである。

第四、原告訴訟代理人は、参加人の右主張に対し次のとおり述べた。

本件選挙の投票中に参加人主張の9の投票の存することは認めるが、同投票が参加人に対する有効投票であるとの参加人の主張は争う。同投票は無効のものであつて、公職選挙法第六八条の二第一項の要件を具備していないから、参加人主張のような按分有効投票であるともいえない。

第五、(証拠省略)

理由

一、原告主張の請求原因事実のうち、一の事実(但し、被告が原裁決において、参加人および原告の各得票数を原告主張のように判定した点を除く。)および二の事実(但し、別紙第一目録記載の1ないし6の各投票につき、同目録記載の検証調書添付写真番号欄の部分を除く。)は当事者間に争がなく、成立に争のない甲第三号証の二によると、被告が原裁決において、参加人および原告の各得票数を原告主張のように判定したことが認められ、検証(但し、候補者浜口正積の投票に対する分を含む。以下単に「検証」という。)の結果によると、検証の際撮影した1ないし6の各投票の写真は、右目録記載の検証調書添付写真番号欄のとおりであることが認められる(以下検証調書添付写真はその番号のみを付し、例えば、「写真(9)」のように表示する。)。

二、そこで、1ないし8の投票の効力について審究する。

(1)  1および2の投票について。

本件選挙において、訴外三尾久雄および同谷敏蔵が立候補したことは、当事者間に争がなく、証人三輪曠、同谷甚蔵の各証言および検証の結果によると、本件選挙においては、氏が谷である候補者は、谷敏蔵(名は「としぞう」と読む。)と参加人谷甚蔵(名は「じんぞう」と読む。)の両名だけであり、当時参加人の住所は美浜町大字三尾であり、谷敏蔵の住所は同町大字浜の瀬(通称「浜」)であつたので、参加人は、谷敏蔵と区別するため、選挙運動期間中は、自己のポスターには別紙第二目録記載(イ)のように「谷甚蔵(たにじん)」(「たにじん」は略称)の右肩に「三尾」と住所を付記し、選挙運動の車の左右両側に張る幕には横書きで「美浜町議会議員候補者谷甚蔵」と記載し、車の後部の幕には別紙第二目録記載(ロ)のように「谷甚(たにじん)」(参加人の略称)の右肩に住所の「三尾」を仮名で表示して選挙運動をなし、一方谷敏蔵は、「浜谷」「浜タニ(たに)」と住所を付した名称またはこれを付しない「谷敏」、「タニトシ(たにとし)」等の略称を用いて選挙運動をしたことおよび本件選挙においては、参加人以外の候補者に対する有効投票中に、その候補者の住所の大字の地名のみを付記した投票が相当数あつたことが認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前示各証拠に照して措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。そこで、1の投票(写真(9))を検討するに、同投票には、候補者氏名欄の中央部に「<手書き文字省略>」と記載し、同欄内において右第一字とはぼ同一の高さで、しかもその右側の位置において、同文字より少し細字で「三尾」と記載してある。右第一字は、正確な記載ではないが、「谷」と判読できる。その下の「<手書き文字省略>」なる記載は、一旦書きかけた未完成の文字を抹消したものであることがその記載自体から認められ、その下の文字は拙劣であるが「ジ」と判読でき、さらにその下の文字は、「ン」であることが明らかである。そうすると、以上の記載状況に、前段認定の事実および特段の事由によるものを除き、選挙人は一人の候補者に対して投票する意思をもつてその氏名を記載するものと解すべきである点(最高裁昭和三二年九月二〇日第二小法廷判決参照)を総合して考えると、同投票は、候補者三尾(三尾久雄)と谷ジン(谷甚蔵の略称)を併記した無効の投票ではなく、谷ジンなる文字の右肩にその住所三尾を付記した参加人に対する有効投票であると判定すべきである。

次に、2の投票(写真(10))には、候補者氏名欄の中央部において、しかも、同欄の上部から下部に長く延びて「谷じんぞう」なる記載があり、その「谷」なる文字の右肩の一段高い位置において「三尾」と記載してある。このような記載状況に、前同様の認定事実および選挙人は一人の候補者に対して投票する意思をもつてその氏名を記載するものと解すべき点を合せ考えると、同投票は、原告主張のような無効投票ではなく、三尾なる住所を付記した参加人に対する有効投票であると判定すべきである。

(2)  3の投票について。

同投票(写真(11))には、候補者氏名欄の左半分の部分に「谷」と記載し、その右半分の部分にこれより少し細いと考えられる大きさの文字で「三尾」と記載してあるが、右二字のうち、「三」の文字は、「谷」の文字よりも一段高い位置に記載され、従つて、「谷」は「三」と「尾」とのほぼ中間に位置している。このような記載状況に、前記(1)において1の投票の有効を判定するに引用した前記認定の事実および選挙人は一人の候補者に対して投票する意思をもつてその氏名を記載するものと解すべきである点を合せ考えると、3の投票は、原告主張のような無効投票ではなく、「谷」なる文字に参加人の住所「三尾」を付記した参加人に対する有効投票であると判定すべきである。

(3)  4の投票について。

同投票(写真(8))には、候補者氏名欄内の上部左側の部分に細字で「タニジンゾウ」と横書きされている。しかし、特段の事情の認められない本件においては、このような記載を原告主張のように不真面目なものと認めて、同投票を無効とすることは妥当ではなく、むしろ、公職選挙法第六七条後段の律意からしてこれを参加人に対する有効投票であるとみるべきである

(4)  5の投票について。

同投票(写真(12))には、原告主張のように、候補者氏名欄の枠の左外側の余白部分に「谷甚蔵」と記載してあるが、このような記載の投票を無効とすべき法律上の根拠はなく、むしろ、公職選挙法第六七条後段の規定の律意からすると、このような記載の投票もまた参加人に対する有効投票であると判定すべきである。

(5)  6の投票について。

同投票(写真(27))の候補者氏名欄に記載されている第一字が「タ」、第二字が「ニ」であることは明かであり、第三字は拙劣な筆跡ではあるが、「ジ」と判読できる。しかし、第四字は文字自体からは、「ソ」「リ」「ワ」「ン」のいずれであるか明確に判定できないが、そのいずれかを表示するものとみることができよう。ところで、参加人の略称が前記のように「谷甚(タニジン)」である事実と同投票の右記載状況を合せ考えると、同投票を記載した選挙人は、参加人の略称「タニジン」を記載すべく、第四字を右のように記載したものであることが推認せられる。従つて、第四字は「ン」と判読するを相当とする。故に、同投票は、参加人に対する有効投票であると判定すべきである。

(6)  7の投票について。

昭和三八年五月一〇日撮影された7の投票の写真であることについて当事者間に争のない検乙第一号証によると、同投票の候補者氏名欄に縦書きに記載してある第一字が「谷」、第二字が「ジ」であることは明かである。ところで、証人三輪曠、同谷甚蔵の各証言によると、美浜町の海岸地区の漁業従事者である住民中には、参加人の名は「ジンゾウ」と発音すべきであるのに、同地区の昔からの方言ないし訛りで、「ジンロウ」、「ジンロ」または「ジロ」と発音する者が多いことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。右認定の事実に、検乙第一号証を対比して考えると、同投票は「タニジンゾウ」を前記のような方言ないし訛で発音する選挙人が参加人に対する投票として「谷ジロ」と記載するため、検乙第一号証のように記載したものであることが推認せられる。従つて、同投票記載の「<手書き文字省略>」は、その筆跡は拙劣であり、筆法は誤つているが、片仮名の「ロ」を表示した文字であるとみるべきである。ところで、谷甚蔵(タニジンゾウ)に対する投票として、その氏の「谷」は明記されているが、名の「甚蔵」(ジンゾウ)が右のような方言ないし訛により表示された本投票の如きも、公職選挙法第六七条後段の規定の律意からして同人に対する有効投票とみるべきである。以上と趣を異にする原告の主張は採用できない。

(7)  8の投票について。

本件選挙においては、「谷」なる氏の候補者は、参加人と谷敏蔵の二人だけであつたことは前記一の(1)で認定したところであり「谷蔵」なる名の候補者の存しなかつたことは弁論の全趣旨により窺われる。本投票には、「谷蔵」と記載してあり、「蔵」は、参加人と谷敏蔵の各名の共通の第二字であるから、本投票は、右二名のいずれかに投票すべく、その名の第一字が当該投票者の不注意等の理由により脱落されたものともみられる。ところで、公職選挙法第六八条の二第一項を適用して投票の効力を定める場合には、同規定ならびに同法第六七条後段の各律意から考察して、その規定どおり厳格に解釈すべきではなく、右各律意に副うよう具体的妥当な解釈をすべきである。このような見地にたつて考えると、本投票の記載のような場合にも、なお右規定は、適用せられるものと解するを相当とする。従つて、本投票は、参加人と谷敏蔵との按分有効投票であるとみるべきである。

三、参加人の主張について。

本件選挙の投票中に、9の投票(検証調書添付写真(28))の存することは原告の認めるところであり、成立に争のない甲第一号証、前示甲第三号証の二によると、美浜町選挙管理委員会は、前記原告の異議申出に対する決定において、同投票は、参加人と谷敏蔵との按分有効投票であると判定したが、被告は、原裁決において、右のような按分有効投票ではなく、無効のものであると判定したことが認められる。同投票には、「谷二蔵」と記載されているから、前認定のように、本件選挙においては「谷」という氏の候補者は参加人と谷敏蔵との両名だけであつてしかも両名の名の第二字はいずれも「蔵」であるから、同投票には、両名の氏名のいずれにも類似した氏名が記載されているといえるけれども、参加人主張のように、同投票記載の氏名が谷敏蔵の氏名よりは参加人の氏名の方に近似しておると解すべき根拠はなく、その記載自体から考えると、特段の事情の認められない本件においては、両者のいずれに比較的近似するかを断定することはできない。従つて同投票が参加人に対する有効投票であるとの参加人の主張は理由がない。そこで、同投票が参加人主張のように、右両名の按分有効投票であるかどうかについて判断する。前記二の(7)において、説示した公職選挙法第六八条の二第一項の規定の解釈についての当裁判所の見地にたつて考察すると、本投票の記載のような場合にも、また、右規定は適用せられるものと解するを相当とする。従つて同投票は参加人と谷敏蔵との按分有効投票であるとみるべきである。

四、以上の次第であるから、1ないし8の投票についての原告の主張は、いずれも理由がなく、9の投票が按分有効投票である旨の参加人の主張は理由がある。

五、そこで、参加人と原告との得票数を算定する。原告の得票数には増減なく、一五一票である。前示甲第一号証、同第三号証の二によると、被告は、原決定において、参加人の得票は単独有効投票が一五一票、公職選挙法第六八条の二により加算した按分有効投票が一・四一一票以上合計一五二・四一一票であり、候補者谷敏蔵の得票のうち、単独有効投票は二七七票であると判定し、かつ、参加人の右按分有効投票は「谷」なる投票一票、「タニ」なる投票二票、8の投票一票以上計四票であつて、これらはいずれも参加人と谷敏蔵との按分有効投票であることを前提としていることが認められる。ところで、原告は、本訴において、原裁決が参加人に対する単独有効投票および按分有効投票であるとした投票のうち、1ないし8の投票についてその無効を主張したが、その主張は前記のように理由がなく、9の投票については原裁決は、これを無効投票と判定したが、参加人主張のように、これを参加人と谷敏蔵との按分有効投票と認めるべきことは前示のとおりであるから、参加人に対する単独有効投票は一五一票であり、右両名の按分有効投票は五票あることになるので、右五票につき公職選挙法第六八条の二第二項により算出すると、参加人につき加算せられるべき按分有効投票数は一・七六四票であること計数上明かであり、参加人の得票数は、合計一五二・七六四票となる。従つて、参加人の得票数は原告のそれよりも多数であり、参加人の当選は有効である。原決定は、9の投票を無効と判定した点において一部違法であるが、結局参加人の得票数を原告のそれよりも多数であると判定し、参加人の当選を有効と認めて原告の審査申立を棄却したから正当であり、従つて、その取消を求める本訴請求は理由がない。よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 安部覚 山田鷹夫 鈴木重信)

(別紙)

第一目録<省略>

第二目録

(イ)

美浜町議会議員候補者

三尾

谷甚蔵(たにじん)

責任者 津村 七五三八

(ロ)

ミヲ

谷甚(たにじん)

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